天翔る

村山由佳「天翔る」~悲しい傷を抱えている人たちへ

村山由佳さんの小説「天翔る」を紹介します。

最近の村山由佳さんの小説は、少々ドロドロとした展開の小説が多く、昔のような透き通った雰囲気の物語を書く事が少なくなってきたな…、と少々寂しくも思っていた所に、今回の「天翔る」。

傷を負い立ち止まっても、歩き出すことの大切さを教えてもらえる作品の紹介です。

●「天翔る」あらすじ

天翔る

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不慮の事故で父親を亡くした少女・まりもは、ある事をきっかけに不登校になってしまいます。

ひょんな事からまりもと出会った看護師の貴子は、まりもを牧場へと誘います。

そこで出会ったのは、少々変わった牧場主と、エンデュランスという乗馬での耐久競技でした…。

●翔ること=生きること、にかける人たち

作者の村山由佳さんは、過去のエッセイで馬の魅力に取り憑かれている事を語り、別の場では実際に自分でも、エンデュランスの過酷なレースに出場したと語っていました。

実際に体験したことが「天翔る」で活かされているのでしょう。

まりもが出場したエンデュランスという競技の魅力と辛さ、しんどさなどが遺憾なく表現され、読んでいる方も、乗っているまりもと共に必死で馬にしがみついているような気持ちになります。

 

まりもは馬に乗りながら何度もそう思います。

雨に降られ、人馬転してしまう恐怖に震えながら、灼熱の太陽に灼かれ、ふらふらになりながら。それでもまりもは愛馬のサイファと一緒に走り、完走を果たしました。

完走に至るまでの道は長く険しく、まるで生きることそのもののように、まりもに襲いかかります。

まりもはサイファと走りますが、決して一人ぼっちではありませんでした。

共に走る人、走るまりもを支えようとする人たち皆と同じ目的に向かっていきます。

その姿も、生きることそのもののようです。

作者の村山由佳さんが「天翔る」という小説を書くことで何を伝えたかったのかは、私には分かりません。

ですがきっと、走る馬とそれに乗る人を書きたかっただけでは決してないでしょう。

個人的には、最後の数ページは鳥肌が立つほど感動しました。

馬という生き物は、ただ立っているその姿だけでとても美しい生き物です。

美しい馬に関わることができるまりもや貴子たちが羨ましくなる、そんな小説です。

●「天翔る」はこんな人にオススメ!

以上、村山由佳さんの小説「天翔る」を紹介しました。

本

「天使の卵—エンジェルス・エッグ」などの、初期の透明感のある作品が好きな人や、消えない痛みのようなものを抱いている人にも読んでほしい、ふわっと気持ちがほどけるような、あたたかな気持ちになれるような小説です。

ぜひ一度、読んでみて下さいね。

ところで、腰痛や頭痛がひどくて読書ができない。なんか一日中イライラしてる。そんな日ってありませんか。
最近知ったのですが、これは生理の2週間前あたりから生理直前までに起こるPMSという症状だそうです。
【詳しくはこちら】生理前の腰痛に… http://www.xn--ldry53fcyatvt73b.com/

PMSは、薬などでも緩和できるそうで、対策方法がいろいろ書いてありますので、上記のホームページを読んでみてください。
PMSは決して一部の人に起こるものではありません。むしろほとんどの女性がそう。
女性なら、誰もが気づかないうちに悩まされている可能性があるので、あなたもPMSかどうかチェックしてみてください。

遥かなる水の音

村山由佳「遙かなる水の音」~切ない涙がこぼれる名作

村山由佳さんの小説「遙かなる水の音」を紹介します。

パリで一人の青年が息を引き取りました。

彼の望みは、

「遺灰をサハラにまいてほしい」。

その遺言を受けて、彼の姉、同居人であるゲイのフランス人、友人のカップル達が、それぞれの思いを胸に旅立ちます…。

切なくも透き通った涙が溢れる作品の紹介です。

●「遙かなる水の音」あらすじ

遥かなる水の音

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パリに住む青年・周(あまね)が望んだ最期の願いは、

「自分の遺灰をサハラにまいてほしい」

でした。遺言に従い、周の同居人だったゲイの男性、周の友人カップル、周の姉、そして魂だけの存在になった周が、共にサハラを目指します。

悲しい旅路の果てに、彼らは何を見たのでしょう…。

フランス

●どこまでも、どこにも続かない旅

これほど悲しい恋愛小説があっただろうか、と思うほど感動した作品でした。

旅をする人みんなが周を愛して、その死を悼んでいるのに、魂だけの存在になった周はどこか安らかな気持ちで彼らを俯瞰しています。

この奇妙な落ち着きと、村山由佳さんが前作に書いた「W/F ダブルファンタジー」の強烈さと比べられてしまったことが、「遙かなる水の音」という作品を「あまり印象が深くない」といった評価が多い作品にしてしまったのかもしれません。

「遙かなる水の音」は一見するとサハラまでのロードノベルのような見方が出来ますが、実際はそれぞれの恋愛を描いた物語であるといった視点でも見ることができます。

愛情の形はそれぞれです。

友情の愛、家族愛、最期まで言う事ができなかった愛…。

それらの想いが交錯し、やがて昇華され、儚くサハラの砂にのって流れていきます。

終章である、遺灰をまく時も、皆じっとだまって周の遺灰をサハラの風にのせます。

そこに吹く熱い風、太陽の熱さ、やがて誰かのすすり泣く声…。

それらが、すぐそこで聞こえ見えるかのような錯覚さえ覚えます。

周の魂は、苦しみの果てにようやく安息の地を見つけて静かに思います。

生まれ変わらなくてもいい、灰のままでいい、と。

この辺りの文章はもう神がかっているとさえ感じるもので、読んでいて涙と鳥肌が止まらなくなるような文章です。

印象が薄い?

とんでもない、これほど悲しく辛く、透きとおった愛の形を描いた作品は、これから先の村山由佳さんに描けるのだろうか、と図々しくも心配する程、魅力に溢れた小説です。

決して派手なシーンもショッキングな内容もありませんが、深く深く、それこそ水のように染み渡るような一冊です。

たくさんの人に読んでほしい、と同時に、決して映像化などで雰囲気をこわしてほしくないと、心から願いたくなる小説です。

●それぞれの愛の形をどう感じるか?

以上、村山由佳さんの小説「遙かなる水の音」を紹介しました。

全体的に淡々とした展開が続きますので、デビュー当時の村山由佳さんの小説が好きな人におすすめしたい小説です。

静かな夜に、読みたい一冊

それぞれの愛の形を、あなたはどう感じるのでしょうか。

ぜひ一度読んでみて下さいね。

WF

村山由佳「W/F ダブル・ファンタジー」~「黒」ムラヤマ誕生!?

今まで「天使の卵—エンジェルス・エッグ」や「すべての雲は銀の…」といった、爽やか青春小説家、として人気だった村山由佳さんですが、今回紹介する「W/F ダブル・ファンタジー」で大化けしたような印象と衝撃を受けました。

そんな「黒」ムラヤマ全開の「W/F ダブル・ファンタジー」を紹介します。

●「W/F ダブル・ファンタジー」あらすじ

WF

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脚本家としての仕事で成功をおさめた主人公・奈津。

しかし家では夫の省吾に気を遣い、居心地の悪い生活を続けていました。

そんな息苦しい毎日の僅かな救いになっていたのが、尊敬する演出家・志澤とのメールのやり取り。

徐々に思いを募らせる奈津はとうとう志澤に誘われて、家を飛び出しますが…。

●性表現の突飛さが話題に…

「W/F ダブル・ファンタジー」は中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞のトリプル受賞として話題になった小説ですが、肝心の中身ではなく性的に奔放な主人公、奈津ばかりが悪目立ちしてしまった作品でもあります。

今までの村山由佳さんの小説作品とは大きく内容が違い、何度も表紙を見て「これ、村山由佳さんの小説だよね」と確認した覚えがあります。

主人公、奈津は呆れるほど多くの男性と性的関係を持ちます。

その中でも特に、大学時代の同級生、岩井との関係には胸が締め付けられるものを感じます。

妻子ある岩井との恋愛はいずれ終わりを迎えると双方が気づいているのに、気づかない振りをして今この瞬間の行為に没頭する二人。

何だか痛々しくさえ感じてしまうのは、岩井の、

「なっちゃん」

という呼び方のせいでしょうか。

そうして夫の元から解き放たれ、多くの男性と関わりを持った奈津が得たものは、

「ああ。なんてさびしい。どこまでも自由であるとは、こんなにもさびしいことだったのか…。」(本文より)

読んでいる方もさびしくなるような結論ですが、奈津はそれでも、浴衣をからげて自分ひとり落とした下駄を探しにゆきます。

この最後の一文が奈津の、そして私たちの生きる姿と重なるようで、苦しくも切なくなってしまいます。

●共感と嫌悪感が引き立つ小説

この小説は本当に賛否両論激しい小説ですので、もしかしたら読むと不快感があるかもしれません。

小説の世界

「馬鹿な女だな」と奈津に対して思うかもしれませんが、私としては「自由を得るための戦いと、それに対する犠牲の多さ」といったものを描いた小説だと思うので、多くの人に読んで欲しい作品のひとつだと思い、紹介しました。

共感を得るか、しょうもない女だ、と呆れるかはその人次第。

ぜひ一度読んでみることをおすすめします。

以上、村山由佳さんの小説「W/F ダブル・ファンタジー」の紹介でした。

翼

「翼―cry for the moon」~550ページの大長編!

村山由佳さんの小説「翼―cry for the moon」を紹介します。

母親からの育児放棄や暴力的な言葉から逃げるようにニューヨークへ渡った日本人女性、真冬。

どれだけ必死にアメリカ人になろうとしても、マフィという名前で呼ばれても、決して変えられないもの。

そしてもう一人、白人と黒人の境界線で悩む青年、ブルース。

真冬の結婚相手、ラリーの死によって巡り会った二人は、次第にお互いに惹かれるようになり…。

そんな壮大な物語の紹介です。

●「翼―cry for the moon」あらすじ

翼

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父親の自殺により、心が壊れた母親から虐待を受けて育った真冬は、母親を捨て去るように日本から飛び出してアメリカへ渡り、そのまま国籍を取得しました。

傷を背負ったまま、新しい人生をラリーと共に生きる決心を固めた、まさにその瞬間に、目の前でラリーは死を迎えてしまいます。

再び大きな傷を背負った真冬は、ラリーの義弟であるブルースと出会い…。

●550ページの長編の魅力

「翼―cry for the moon」は550ページもの大長編小説です。

あまりの本の分厚さに少々腰が引けてしまう人もいるかもしれません。

しかし、村山由佳さんの小説の魅力はここでも遺憾なく発揮されていて、とても読みやすい文章でスイスイ内容が頭に入ってきます。

内容は虐待や人種差別といった、とても重い内容であるのにもかかわらず、疲れる事なく読むことができるのが凄いところです。

村山由佳さんの小説の中では特にこの「翼―cry for the moon」の人気が高いようです。

作者である村山由佳さん自身も、登場人物のブルースに大変思い入れがあるようで(何でも高校生の時に作ったキャラクターだそうです。凄いですよね)力がこもっているのがよく伝わります。

何となく“読まず嫌い”をしている人も多いようですが、この小説は読まないともったいない!と熱くおすすめしたい小説です。

今まで何とも思っていなかったインディアンという存在が抱える問題や、境界線に生きる者の苦悩、出会いや別れなど、何度読んでも新しい発見がある、見た目の重量以上に「重い」本だと思います。

気楽に読むのには向かないかもしれませんが、読んで後悔することはきっとない、と言い切れる位の小説だと思っています。

●「翼」を読まないと真の村山由佳ファンではない!?

書籍

以上、村山由佳さんの小説「翼―cry for the moon」を紹介しました。

読了後はきっと、感動の涙に包まれるであろう、村山由佳さんの真骨頂とも言える小説です。

読んだことのない人はこの機会に、読んだことがある人は何度でも読み返して欲しい作品です。

すべての雲は銀の…

村山由佳「すべての雲は銀の…」~全ての人に幸せを…

都市圏に暮らす人の中には、田舎暮らしに夢を抱いている人もいるのではないでしょうか?

自然が豊かで、人との温かい交流もあって…、と魅力を感じているのかもしれませんね。

しかし、実際に暮らしてみると、それなりに不便や、ややこしく感じる事も多いのです…。

今回は村山由佳さんの小説「すべての雲は銀の…」を紹介します。

●村山由佳「すべての雲は銀の…」あらすじ

すべての雲は銀の…

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恋人の由美子の気持ちを、よりによって実の兄に奪われてしまった主人公・祐介。

友人のタカハシの紹介を頼りにたどり着いた先は、信州にある小さな宿、「かむなび」。

頑固者の園主、園主の身内である瞳子とその子供、健太。

花の仕事をする女の子たち。

由美子の影を忘れようと、必死に仕事に取り組む内に、祐介の周りにいる人たちも、辛い傷を抱えている事に気づいてきて…。

●赦しの物語、赦されたい人たち

最初にこの「すべての雲は銀の…」を読んだときは、祐介の気持ちが痛いほどに伝わってきて、「絶対に由美子と兄貴は許せない!」と憤っていたものです。

何度かこの本を読み返し、それなりに人生経験というものを積んだ後に読んでみると、なるほど祐介の幼い怒りや、最終的に何故祐介が由美子を赦そうと思ったのか、じんわりと伝わるような気がします。

シビアな言い方をすれば、過ぎ去った時間はもう戻りません。

どれだけ後悔や憎しみを募らせたとしても、幸せな時は二度と戻らず知らなかった頃にはもう戻れません。

そのまま憎しみを募らせながら一生を暮らすのもいいでしょう。

ですが、祐介はそれを良しとしませんでした。

こんな自分が嫌だ、中途半端な自分でいたくないと願い、ふと、由美子はそんな自分を赦してくれていたんだな、と気づき、次第に由美子を赦す気持ちが芽生えていきます。

「すべての雲は銀の…」は赦しの物語だと思います。

赦すというと、傲慢な響きに聞こえるかもしれませんが、人は誰かに赦され、また誰かを赦して生きているものなのでしょう。

これは祐介と由美子に限った話ではなく、園主や瞳子さんなども同じように誰かに傷つけられて、それでもひたむきに生きていこうと努力をしています。

物語のクライマックスで、祐介は多くの人を傷つけてしまい、中途半端な自分にケリを付けるため、一度東京へ帰るところで終わります。

おそらく、祐介と由美子の関係はそこでようやく終わりを迎え、祐介は再び歩き出すのでしょう。

それを読者が見ることはありませんが、祐介ならなんとか上手く、「かむなび」でやっていくのだろうな、という希望に満ちた物語です。

息もつかせない展開や、大どんでん返しといった小説ではありません。

ですが、こののんびりとした展開の中にも、たくさんのドラマと感動があって、ファンタジーやサスペンス小説とはまた違った魅力を感じるのです。

●心が少し疲れた人へおすすめしたい作品

村山由佳さんの小説「すべての雲は銀の…」を紹介しました。毎日の仕事でくたびれている人や読んだ後にほっとした気持ちになりたいような人におすすめしたい作品です。

疲れた猫

ぜひ一度読んでみて下さい!

天使の卵

村山由佳「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」~恋愛小説の出発点!

作家の村山由佳さんのデビュー作、「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」を紹介します。

ここまでひたむきに、誰かを愛したことがありますか?

恋って、こんなに苦しいものだったっけ…

そんなほろ苦い恋心を思い出させる、悲しい恋の物語を紹介します。

●「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」あらすじ
主人公の歩太は19歳の浪人生。

天使の卵

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好きな絵で美大に行くか、堅実な人生を歩むために生きるべきかを悩むうちに、大学試験に失敗してしまいました。

そして、その年の春に偶然巡り会った精神科医、春妃に衝撃的な恋をしてしまいます。

彼にはガールフレンドの夏姫がいたけれど、どうしてもこの気持ちは止められなくて…。

●さびしい人々が、愛をはぐくむ物語

人々

村山由佳さんのデビュー作である「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」ですが、確かにデビュー作という事もあり、稚拙で早急な展開だな、といった感じはします。

そういったレビューも多く見かけます。

しかし、この痛々しいほど純真は愛情を描いた物語は、その後の村山由佳さんには描くことが出来ない、ある意味では唯一無二の作品となりました。

多くの人にこの「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」が支持され、映画やコミックといった作品に昇華されたのは、この作品がかつて自分の中にあって、二度と戻ることがない感情が隠されていることを知っているからではないでしょうか。

「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」のラストは悲劇で終幕を迎えます。

私たちの心の中にも、主人公の歩太のように、ぽっかりと取り残された感情がどこかにあるからこそ、この物語は多くの人々の胸を打つのかもしれません。

●歩太が行き着く先は…

「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」は、春妃の死をもって終わりを迎えます。

歩太は、春妃と過ごした彼女の部屋を守りたい、と願いながらも、それは叶わない事だと自分でも分かっていました。

春妃との写真さえなかった彼の手に残ったのは、彼女を描いたクロッキーと、赤ん坊の小さな靴下。

おそらく歩太はそれだけを持って、春妃の部屋を出たと思われます。

私たち読者が感じる、空虚な感情はそのまま歩太のものであり、その空っぽな感情を抱えながらも、私たちと歩太は生きていかねばならないと痛感させられます。

人は、死んだ人には追いつけないものだから。

ちなみに「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」はその続編として「天使の梯子」「ヘヴンリー・ブルー」「天使の柩」が発表されおり、春妃に置いて行かれた人々の静かな再生が描かれています。

こちらも感動の作品となっていますので、気になった人はぜひ読んでみて下さい。

●静かな感動を与える物語

以上、村山由佳さんのデビュー作「天使の卵ーエンジェルス・エッグ」を紹介しました。

物語は淡々と、あるいは平坦に描かれていますが、その静かさがよりさびしさを際立たせるような印象の作品となっています。

せつない程純粋な恋愛小説を読みたい、という人にうってつけの作品となっていますので、ぜひ読んでみて下さいね。

星々の舟

直木賞受賞作!村山由佳「星々の舟」~暗い闇の中に輝く一条の光

村山由佳さんの小説「星々の舟」を紹介します。

「星々の舟」は第129回直木賞を受賞した作品として注目を集めました。

禁断の恋に悩む兄妹。

人の恋人ばかりを好きになってしまう妹。

居場所を探す兄、そして傷跡を抱えた父…。

それぞれの思いは小さな星のように瞬き、家族という名の舟は大海原を渡る――そんな感動の小説を紹介したいと思います。

●「星々の舟」あらすじ紹介

星々の舟

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物語は6章からなるオムニバス形式で、それぞれの家族の思いを語ります。

暁と沙恵は、血の繋がった兄弟だとは知らずにお互いを想い、そして引きちぎられるようにして別れながらも、未だにその恋を終える事ができずに気持ちを閉じ込め続けています。

妹である美希は、暁と沙恵の関係を知ったことに関係するのか、終わりが見える恋ばかりを続け、結果自分一人傷をかかえ続け…。

兄弟4人やその家族はそれぞれ誰にも言えない傷と痛みを抱え、それでも生きていかなければならないと、必死に呼吸を続けています。

それは兄弟の父である重之でさえそうで、戦争の影をそのままに今を生き続けています。

●悲しい家族の姿

直木賞受賞作品というと、失礼ながら「んん?」と思うような作品もあるのですが、村山由佳さんの「星々の舟」はとにかく読み応えがあって、何度も再読をしたくなるような作品に仕上がっています。

「少し詰め込みすぎ」

といった声もあるようですが、それさえも「家族って、他に言わないだけでそれ位たくさんの秘密があるんだよな」といった考え方も出来るのではないでしょうか。

私にとってはこの「星々の舟」は、「家族」という、ばらばらでありながら離れがたい、星座の輝きを見るような、不思議な「つながり」のようなものを感じる小説であったと思いました。

家

きっかけは、重之の二度目の妻、志津子が亡くなるという悲しい出来事からですが、家族はそれぞれに新たな道を開いた所で終幕を迎えます。

そのほとんどが、希望に満ちた終わり方で「どれ程の出来事があっても、生きなければいけない」といった事を考えされられる終わりになっています。

●自由と孤独を語る物語

以上、村山由佳さんの小説「星々の舟」を紹介しました。

それぞれの物語は一見すると不幸に見えるかもしれません。

それでも、ある章で描かれたように、雨はやがて止み、光が差し込んできます。

そういった、暗いけれど光が見える作品であると感じました。

少々重たい展開ですので、物語をじっくりと読みたい、という気分の時にぴったりの作品なのではないでしょうか。

村山由佳さんの「星々の舟」、ぜひ一度読んでみて下さいね。

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村山由佳「海を抱く―BAD KIDS」~人の中の影の部分をさらけ出す

村山由佳さんの小説「海を抱く―BAD KIDS」を紹介します。

この小説の前作となる「BAD KIDS」のアナザーストーリーのような小説で、前作以上にドロドロとした展開が目を離せなくなるような小説です。

●「海を抱く―BAD KIDS」あらすじ

海を抱く

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サーフィンに情熱をそそぐ高校生、光秀は「誰とでも寝る軽いヤツ」という風評を持つ男。

一方、成績優秀で教師からの信頼も厚い優等生、恵理。

全く接点のなさそうな二人がある出来事をきっかけに、性的な関係を持つようになってしまいます。

「取り引き」という名目で抱き合う二人ですが、徐々に関係に変化が訪れ…。

●傷つけ合う二人の関係

手繋ぎ

前作「BAD KIDS」でも、性的な表現があって少々ドキドキした経験があるのですが、「海を抱く―BAD KIDS」はそれ以上と言ってもいいほどの濡れ場で、「村山由佳さん凄い…」と思った記憶があります。

二人の曖昧な関係を軸に、光秀の父親が末期の癌に冒され余命幾ばくもないこと、恵理の兄が引き起こした事件などを経て、二人の関係は少しずつ変化を見せます。

秘密を共有した二人は、たとえそれが後ろ暗いものだとしても、お互いを強く引きつける力があるのでしょう。

それは多分、世間が「絆」と呼ばれるものに、とても近いものなのかもしれません。

二人は、大人達が眉をひそめるような事をしていることを充分に理解しています。

それでも、寂しい心の隙間を埋めるように、お互いを求め合います。

村山由佳さんの小説は、どれも普通の恋愛を書く事が少ないように思えます。

それでも、根っこの部分はとても純粋で単純なもの、お互いを想う気持ちのようなものがあるからこそ、たくさんの人の共感を得るのでしょう。

●文章に漂う「香り」と「音」

村山由佳さんの小説の書評を書いた人が、

「彼女の小説には香りがある」

と書いていました。

確かに村山由佳さんの小説には、匂いや音を感じる事が多くあります。

「海を抱く―BAD KIDS」でも、酸っぱい夏みかんの香り、海の匂いや潮騒の音、自転車を押して歩く時のチキチキとした音…たくさんの音や香りをすぐ側で感じる事ができます。

「リアリティがない」

といった意見も見られますが、これほどリアルに舞台を、人を描いている作品はあまり見当たらないのではないでしょうか。

村山由佳さんは別の本で、

「私のからだを通り抜けてできた言葉」

といった書き方をしていましたので、彼女の小説は全てではないでしょうが、自身が経験したことが多いのかもしれません。

その経験が、文章に漂う音や匂い、人の感情に表れているのかもしれませんね。

●ぜひ前作「BAD KIDS」から!

以上、村山由佳さんの小説「海を抱く―BAD KIDS」を紹介しました。

もちろん前作「BAD KIDS」を読んでいなくとも楽しめる小説ですが、読んだ人には、所々で前作の主人公、都と隆之が登場することでニヤッとする事でしょう。

少々重い展開ですので、じっくりと読む時間があるときに開いて、自分の中にある恵理に似た部分や光秀に似た部分などを発見してみると面白いかもしれません。

とてもいい作品ですので、ぜひ一度読んでみて下さい。

バッドキッズ

村山由佳「BAD KIDS」~ひたむきでドロドロな青春小説

自分にも高校生の時代が確かにあったはずなのに、何故か高校生というのは綺麗でひたむきで、といった印象を持ってしまいます。

高校野球の清らかな印象がそうさせているのでしょうか。

現実の高校生はもっとドロドロとしたものを持っていて、親には絶対言えないような秘密を隠し持ったりしています。

今回は、村山由佳さんの小説「BAD KIDS」を紹介します。

●「BAD KIDS」あらすじ

バッドキッズ

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ラグビー部である幼なじみの同性に恋をしてしまい、悩み苦しむ隆之。

そんな隆之を被写体として写真に撮り続ける、都。

彼女は20も年上の写真家との関係に悩み、そして隆之と接触を持ちます。

似たもの同士のふたりが寄り添い合い、傷つきながらもそれぞれの決断を下します。

隆之の恋慕は、都の恋は?

●ドロドロの感覚とキラキラの正義感

この本を読んだのは私が高校生の時ですが、性についての表現にドキドキした事をよく覚えています。

ドキドキ

恥ずかしながら、村山由佳さんの小説にはそういった性についてのきわどい表現を楽しみに読んでいた所もあったものです…。

「BAD KIDS」の主人公である隆之と都は、そこらにいる高校生と同様に、性や将来について悩み、もがいています。

その感覚は読んだ当時、高校生だった私には痛いほどよく理解できたもので、今でも読み返すとあの時の感覚が蘇るような気がします。

多分、当時の村山由佳さんの小説が、高校生を中心に圧倒的な支持を得たのは、そういった等身大の人間の悩みがうそ偽りなく、飾り気なく描かれていたからだと思います。

17歳くらいって、大人の気分でいても実際の大人から子ども扱いをされる事に苛立って、でも自分では決められない事があって、毎日が苦しくて…。

そういったドロドロとした感覚を持てあますような気分、そういったものを確かに表現した作品が、「BAD KIDS」であると、私は思います。

高校生って潔癖な部分と、大人よりも大人びた部分が同居しているという、奇妙な時期でもありましたよね。

そういった、自身の恥ずかしいような部分を思い起こさせる小説にもなっています。

隆之と都は、傷つきながらも逃げずに自分で決断を下します。

これもまた、この時期だからこそできる、痛みさえ感じるような決意です。

そういった感情、大人になった私ならできるかな?と、何だか自分の事に置き換えて考えたくなるような小説です。

●魂の双子達

「BAD KIDS」の主人公、隆之と都は、まるでひとつの魂を分け合ったように、似たもの同士の二人です。

ですが決してお互いに依存はせず、自分の事は自分で決着を付けようとします。

そういった姿を見ると、大人である自分は何をしているのか、といったシャンと背を伸ばしたくなるような気持ちにさせられる物語です。

高校生やそれに近い年代にもおすすめしたいですし、私のような、遠い昔に高校生だった人にも読んでほしい、ひりひりした痛みを感じるような小説です。

ぜひ一度読んでみて下さい。きっと村山由佳作品にのめり込むこと請け合いの小説です。

以上、村山由佳「BAD KIDS」を紹介しました。

放蕩記

村山由佳「放蕩記」~娘は母の呪縛から逃れられない?

村山由佳さんの小説には、主人公を追い詰めるような母親が多く登場します。

ある母親は自殺してしますし、別の母親は宗教に傾倒して、言葉の暴力で主人公を虐げますので、読者の視点から見ると「村山由佳さんは、母親と上手くいってないんだろうな」といった雰囲気を読み取っていました。

その雰囲気を確信させるような作品、村山由佳さんの小説「放蕩記」を紹介します。

●「放蕩記」あらすじ

放蕩記

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小説家の夏帆は、幼いときから現在に至るまで、母親への反発と恐れを胸に抱いて生きています。

母親の悪気のない、けれどその分きつい言葉にいちいち傷つき、憎しみを募らせる自分にもうんざりとしている夏帆。

改めて夏帆と母親の関係に向き合う夏帆に、母親の認知症という事実が突きつけられて…。

●血の鎖に縛られる母娘

この本が出版されたとき、読者から賛否両論の嵐が巻き起こっていました。

この作品は、主人公=村山由佳さん、と位置づけるのは短絡だと思いながらも、明らかに本人だと分かるような書き方をしています。

夏帆が書いた小説は、タイトルこそありませんがほとんど村山由佳さんが過去に書いた小説を思い起こさせますから。

レビューを見ると、

「自分もこういう母娘の関係に悩んでいたから、救われた」

という人と、

「反論できない母親に、この書き方は卑怯だ」

という意見と。

どちらの言い分も正しいよな、と思います。

かくいう私も、最初に読んだときはこの主人公である夏帆が大嫌いだと思いましたから。

どれだけ作者の村山由佳さんが意識しているのかは分かりません。

ですが、どれ程厳しく母親をののしっても、その言葉は全て自分にも返っていくのです。

「78歳のわがまま娘。始末に負えないといえば、これほど始末に負えないものもない」

本文の言葉ですが、私から見ると夏帆だって似たり寄ったりだろ、と突っ込まずにはいられません。

もういい年なんだから、母親と、夏帆自身を責めるのは止めた方が良いのに、とも思います。

身も蓋もない言い方をすれば、例え親子だとしても相性はあると思います。

どれ程近しい家族でも、理解し合えない部分があって、それを赦しあえないのであれば、血の絆はただの鎖になってしまい、双方を傷つけるだけなのでしょう。

夏帆に対して「ずるい」と感じるのは、母親の言い分を聞かずに、一方的にまるで「告げ口」のような形でこういった文章を発表したからです。

過去に夏帆が万引きを犯したとき、過剰に泣きわめく母親に冷たい視線を浴びせかけたように、「あなたがそれを言うな」といった気持ちにさせられるのです。

少々厳しい書き方をしましたが、それでもこの小説は何度も読んでしまうのです

多分それは、最後に夏帆が、

「そりゃあ、母娘ですから」

と告げる、この台詞に夏帆と読者が救われるからなのかもしれません。

あまりにもさりげなく、少々ひねくれた書き方をされているので見落としてしまいがちなのですが、この台詞で「放蕩記」は「救い」の物語になったのかもしれません。

●母親から生まれた人たちへ

親子

前述の通り、賛否両論激しい小説ですが、それでもたくさんの人にこの本を読んでもらいたいと思います。

何が正しいのか、間違っているのかは分かりません。

読んだ人がそれぞれに感じた事が、正解なのかもしれません。

以上、母親をもつ、全ての人に読んでほしい作品「放蕩記」を紹介しました。