村山由佳さんの小説「天翔る」を紹介します。
最近の村山由佳さんの小説は、少々ドロドロとした展開の小説が多く、昔のような透き通った雰囲気の物語を書く事が少なくなってきたな…、と少々寂しくも思っていた所に、今回の「天翔る」。
傷を負い立ち止まっても、歩き出すことの大切さを教えてもらえる作品の紹介です。
●「天翔る」あらすじ
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不慮の事故で父親を亡くした少女・まりもは、ある事をきっかけに不登校になってしまいます。
ひょんな事からまりもと出会った看護師の貴子は、まりもを牧場へと誘います。
そこで出会ったのは、少々変わった牧場主と、エンデュランスという乗馬での耐久競技でした…。
●翔ること=生きること、にかける人たち
作者の村山由佳さんは、過去のエッセイで馬の魅力に取り憑かれている事を語り、別の場では実際に自分でも、エンデュランスの過酷なレースに出場したと語っていました。
実際に体験したことが「天翔る」で活かされているのでしょう。
まりもが出場したエンデュランスという競技の魅力と辛さ、しんどさなどが遺憾なく表現され、読んでいる方も、乗っているまりもと共に必死で馬にしがみついているような気持ちになります。
まりもは馬に乗りながら何度もそう思います。
雨に降られ、人馬転してしまう恐怖に震えながら、灼熱の太陽に灼かれ、ふらふらになりながら。それでもまりもは愛馬のサイファと一緒に走り、完走を果たしました。
完走に至るまでの道は長く険しく、まるで生きることそのもののように、まりもに襲いかかります。
まりもはサイファと走りますが、決して一人ぼっちではありませんでした。
共に走る人、走るまりもを支えようとする人たち皆と同じ目的に向かっていきます。
その姿も、生きることそのもののようです。
作者の村山由佳さんが「天翔る」という小説を書くことで何を伝えたかったのかは、私には分かりません。
ですがきっと、走る馬とそれに乗る人を書きたかっただけでは決してないでしょう。
個人的には、最後の数ページは鳥肌が立つほど感動しました。
馬という生き物は、ただ立っているその姿だけでとても美しい生き物です。
美しい馬に関わることができるまりもや貴子たちが羨ましくなる、そんな小説です。
●「天翔る」はこんな人にオススメ!
以上、村山由佳さんの小説「天翔る」を紹介しました。
「天使の卵—エンジェルス・エッグ」などの、初期の透明感のある作品が好きな人や、消えない痛みのようなものを抱いている人にも読んでほしい、ふわっと気持ちがほどけるような、あたたかな気持ちになれるような小説です。
ぜひ一度、読んでみて下さいね。